<高校野球>健大高崎は“暗黙のルール” を破ったのか

■11盗塁の機動力で大勝した健大高崎 健大高崎(群馬)は、チームのスローガン「機動破壊」をそのまま甲子園の舞台で表現した。計11盗塁で引っ掻き回して10-0。走って走って走りまくって、初出場の利府(宮城)を下し3回戦へ駒を進めた。1953年に土佐が記録した1試合13個の大会記録には及ばなかったが、1回戦の4盗塁と合わせ2試合で15盗塁。群馬県大会でも6試合で35盗塁を記録し、前夏の覇者、前橋育英と選抜ベスト16の桐生第一を破ってきた。その機動力はダテではなかった。 ■“容赦ない走塁”に一部では批判的な声 しかし、その容赦なく最後まで走り続けた姿勢に批判的な声も一部から出た。ツイッターやネットの書き込みを覗くと、そのほとんどが圧巻の機動力野球の技術と姿勢と勇気を賛美する声だったが、一方で否定的な意見もあった。 「対戦相手を侮辱するにも程がある」 「野球の技術は教えても点差が開らくと盗塁しないというマナーは教えないようだ」 これらの批判的意見の根拠にあるのが、野球界にある『暗黙のルール』を破ったのではないか?という見解だ。 ■メジャーに存在する暗黙の不文律 米メジャーには、アンリトン・ルール(unwritten rules:ルールブックに書かれていないルール)と言われる暗黙の不文律がある。派手なガッツポーズをしないことや、大差のついたゲームでカウント3-0から打たないなどの“モラルある行動”で、大差のついたゲームの終盤でのバントや盗塁を禁じているのも、そのひとつ。もしやれば盗塁に成功しても公式記録とならず報復の死球が発生する。昔のプロ野球では、「あったようでなかった。タイトルホルダーなどは、暗黙のルールを破って走ったし、打ってきた」(元阪神の掛布雅之氏)そうだが、近年、日本のプロ野球でもメジャーの影響を受けて暗黙のルールが浸透していて、しばしばトラブルの素となるプレーも生まれる。 ■日本プロ野球界でも過去の問題視される 2010年のオリックスー阪神の交流戦では、阪神の俊介が5点リードの7回に盗塁を仕掛けて、試合後、当時オリックスの監督だった岡田彰布氏が、「大変なことをしたな」と激怒し騒動となった。ことの顛末を後日、岡田氏に聞いたことがあるが、「こっちが(盗塁を)警戒もしてないとこに完全な侮蔑行為。(ルールを)知らなかったではすまない。やったらあかんことよ」という話をしていた。 健大高崎は8-0で迎えた9回二死から脇本がセンター前で出塁すると、迷うことなく二盗を決めた。続く4番打者にスリーベースタイムリーヒットが飛び出して9点目を刻むことになるが、暗黙のルールに照らせば、この脇本の盗塁は“アウト”である。 ■セーフティリードのない高校野球 だが、これらの暗黙のルールは、あくまでもプロの世界の話。1回戦の藤代(茨城)×大垣日大(岐阜)戦では、藤代は初回に8点を奪いながらもゲームをひっくり返され10-12で敗れた。石川県予選の決勝では、星稜が小松大谷を9回に8点差を逆転して甲子園切符をつかんだ。高校野球において『終盤5点差以上』というセーフティリードは、あるようでないのが現実でそもそも、そういう『暗黙のルール』を高校野球にあてはめることが間違っている。例えルールに違反していなくとも、スポーツマンシップの精神を忘れてはならないが、勝利のために懸命になる姿勢を誰も批判はできないだろう。 実際、「日本一の意識を持って取り組んでいる」(青柳監督)という健大高崎の走塁は、ホームランに匹敵するような武器である。2010年の夏群馬予選準決勝で、前橋工業に0-1で敗れた試合を契機に走塁というものに着眼することになったのが「機動破壊」のスタートだという。専門の走塁スタッフまで置き、練習でも、常に走者を置いて次の塁を狙う意識を徹底して、盗塁に関しては、映像を研究して相手投手の牽制やクイックの癖や、そのタイムまで計測して細かいデータを集め、それをチーム全員に共有して盗塁の成功の確率を高めている。 ■日本の甲子園には通用しない“暗黙のルール” 盗塁はベンチからのサインではなく、青柳監督は「盗塁は選手の感性にまかせている。基本的にサインは、行けたら行けです」と説明する。いわゆる「グリーンライト」と呼ばれているサイン。脇本の言葉を借りれば、「塁に出たら走る、次の塁を取るという意識をみんなが持っている」というから、そんな高校生にプロの世界の“暗黙のルール”を押し付けることは、彼らの努力や哲学を否定することにもなる。いつのまにかメジャーから上陸してきた“暗黙のルール”は「汗と涙の結晶」という日本独特の文化の上に成り立っている甲子園の大会には通用しないのである。 ただこういう問題提起は素直に受け止めて高校野球の指導者は悩むべきだと思う。筆者の好きなアメリカのコラムニスト、ピート・ハミルは、「勝利がすべてではない。人は負けながらも勝つことができる。スポーツのおける競争で大切なのは、人間を形成することである」と書いた。その哲学に照らし合わせて考えてみる作業は必要なのだと思う。 ポーター ビジネスバッグ ブランド リュック 人気 鞄 ブランド aniary slow クレドラン head porter