【九州の地方紙検証】(4)規制委、安全審査「合格」

■川内早期再稼働に慎重論 原発ゼロの対案示さず  九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)が今年7月16日、再稼働の前提となる原子力規制委員会の安全審査に事実上、「合格」した。原発全停止は、九州経済を牽引(けんいん)する九電の財務悪化を招き、電気料金値上げを引き起こした。電力の供給不安が続く中、フル稼働を続ける火力発電所がパンクして、いつ大規模停電になってもおかしくない。原発の早期再稼働は待ったなしだが、地方紙は慎重論が大勢を占めた。                   ◇  産経は7月17日付朝刊の「主張」で、「早期実現でリスク減図れ」との見出しで、大規模停電が心配されるこの夏に再稼働が間に合わないのは重大な問題であるとした。  また、「原発停止で余分にかかる火力発電の燃料輸入代が年間3・6兆円に達している現状を考えれば、当然の要請だ。毎日100億円の札束を燃やして電気を得るという国富の流出に思いを致すべきである」とし、時間がかかり過ぎている規制委の安全審査の迅速化を指摘し、なぜ再稼働が必要なのかを明確に論じた。  さらに、規制委の対応について、「国力の低下や大規模停電の発生といった社会的リスクの増大は、一顧だに値しないとするかのような印象を与えている。国の行政機関がそれでは責任を果たせまい」とも述べ、規制委の姿勢にクギを刺した。  一方、九州の原発立地県をはじめ、主な地方紙は、いずれも早期再稼働に慎重だ。  川内原発のある南日本は7月17日付朝刊の社説で「川内原発『合格』 まだ安全とはいえない」との論を展開した。  川内原発に次いで安全審査が進む玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)がある佐賀も、7月19日付朝刊で「川内原発審査『合格』 初の再稼働にかかる責任」と題した、宮崎勝氏の署名入り論説記事を掲載した。  西日本は7月17日付朝刊社説で「川内原発 再稼働前に議論を尽くせ」とし、再稼働に向けて十分な論議が必要と訴えた。  地元の同意が必要な自治体の対象範囲や、同意手続きが曖昧(あいまい)で、周辺住民の避難計画も十分でないことを指摘し、「不安や課題を残したまま、再稼働に進むのでは拙速との批判を免れない」とした。  また、「昨年施行の新規制基準で、原発の過酷事故対策や地震・津波対策は厳格になった。しかし、火山噴火などへの対応は試行錯誤の段階だ」と規制委の安全審査自体にも疑念を示した。  ◆火山対策に固執  各紙に共通するのは、火山対策への指摘だ。  「規制委は『危険性は十分小さい』と判断し、対策は『監視』止まりだった。川内原発の敷地には過去の巨大噴火で火砕流が及んだ可能性が高く(中略)規制委が危険性をどこまで十分に審議したのか疑問が残る」(南日本)  「審査で不十分との指摘があるのは火山対策だ。(中略)規制委は監視強化で噴火の前兆を把握できるとしたが、火山学者から『監視だけで予知はできない』との批判がある」(佐賀)  いずれも火山対策と住民の避難計画の不十分さを強調し、再稼働より優先すべき課題があるとした。  川内原発は桜島から約50キロにあることから、規制委は安全審査を申請した9電力会社19基の原発のうち最も火山噴火のリスクが高いと懸念を示したためだ。  ただ、規制委は新基準とは別に火山の影響を評価するガイドをつくり、九電に地殻変動を監視する衛星利用測位システム(GPS)を設置するよう要請した。その上で、巨大噴火は1万年に1回程度で頻度が極めて低いと結論付けている。  確かに、東京電力・福島第1原発事故を受け、県外からも再稼働反対の市民団体が集まるだけでなく、安全性への不安を抱く住民がいることも事実だ。  だが、薩摩川内市内のホテルや旅館をはじめ、電気料金の高騰でコスト高に苦しむ中小企業など九州経済が大ダメージを受け、早期の再稼働を待ち望んでいる事実もある。  さらに西日本は、避難計画の不備について、薩摩川内市に隣接するいちき串木野市の市民団体による署名活動で、人口3万人の半数以上が再稼働に反対の署名をしたことに言及した。  この署名について、産経は取材で、半ば強引に署名を求められたという市民の証言を多数得た。鹿児島県内で開かれた集会には、県外から警察庁指定の極左暴力集団や、原発再稼働に反対する「プロ市民」ら再稼働反対ありきのグループも参加している。  ◆感情論が先行  気になるのは、原発ゼロによる国力の低下や多くの死者が出かねない大規模停電のリスクがあるにもかかわらず、九州の地方紙にはそのことへの言及がほとんどないことだ。  1万年に1回起きるかどうかわからない火山の巨大噴火のリスクとどちらを優先するべきか-。答えは明らかではなかろうか。  桜島を含む姶良(あいら)カルデラの巨大噴火のリスクを指摘する専門家もいる。  だが、仮に巨大噴火が起きれば、九州本土の一部が壊滅する規模であり、原発の安全対策や住民の避難計画の有無が生死を左右するどころではない。  航空機や鉄道といった文明の利器にリスクを伴わないものはない。  どれもいかにリスクを減らすかの努力を重ねて活用している。原発にだけ「ゼロリスク」を求めるのは感情論が先行していると言わざるを得ない。  また、原発再稼働に異論を唱えるなら、石油や天然ガスといった資源に乏しい日本で電力の安定供給を維持する対案を示すべきというのが産経の見解だ。  反原発団体や一部のマスコミがもてはやす、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーは、天候に左右され今の技術ではベース電源になり得ない。  こうした現状の中で原発再稼働に難色を示すことこそ、リスクを増大させているのではないだろうか。 ポーター ビジネスバッグ ブランド リュック 人気 鞄 ブランド aniary slow クレドラン head porter